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この連載はかもめと街 チヒロさんと好きなZINEをそれぞれ紹介しあうというコンセプトで始めました。毎月25日(シモダ)・10日(チヒロさん)の月2回、それぞれのサイトで往復書簡を公開します。前回のお手紙はこちら。
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かもめと街 チヒロ様
こんにちは。
前回のお手紙もとんでもない熱量の高さでしたね。チヒロさんにとっての「理想のZINE」を知れて楽しかったですし、何より作り手そして読み手としてチヒロさんがZINEに向ける愛情が行間からひしひしと伝わってきて思わず何度も読み返してしまいました。
「アンジュルムを聴きながら書いた」の部分に敏感に反応してしまい、その節は大変失礼しました。勢い余って送りつけた動画も見ていただき感謝です。アンジュルムの話になると途端に饒舌になるんですが、メッセージの文章でそれが(早口になっているのが)伝わってしまったのがちょびっと恥ずかしかったです。それにしてもなぜ人は好きなものの話をするとき早口になってしまうんでしょう。謎です。
そしてチヒロさんがお手紙の中で取り上げてくださったおかげで『VACANCES』を制作している原さんもハロプロが好きなことを改めて認識(『VACANCES』の中にヒントは隠されていたんですが、うっかり見落としていました)することができました。まさかここが繋がってくるとは。チヒロさんがゆっきゅんをテーマにエッセイZINEを作りたいと書かれてましたが、同じようにハロプロをテーマにしたエッセイ(それこそ『いちいち言わないだけだよ。』みたいなもの)を僕も作りたい、いや読みたい。そう思うぐらいに周りにハロプロ好きな人が増えてきました。なんでも声に出して言ってみるものですね。……とまあハロプロ話が止まらなくなってしまいそうなので、そろそろ本題に入らせていただきます。(笑)
『ON-GROUND CINEMA』(summersail)
これはご自身もトーキョーブンミャクという出版レーベルでZINEを作られている西川タイジさんから先日教えてもらったZINEです。西川さん、おすすめしてくれるZINEがまたどれも本当に面白くて。作り手としてももちろん凄いZINEを作られる方なんですが、読み手として僕が絶対的な信頼を寄せる存在の一人です。今回紹介してくれた『ON-GROUND CINEMA』もど真ん中ストライクな一冊でした……!
さまざまな人たちが映画館に映画を観に行く「までの」ことを描いたグラフィックノベルなんですが、切り取る箇所がとにかく絶妙で。何か行動を起こす瞬間を描くのではなく、その行動に至るまでの流れの方に着目する発想は自分の中にはなくて、これは世界の見方が変わるぞ……と読みながらわなわなしました。映画館やライブに行くと同じ会場に色んな人たちがいますが、その人たちがどんな一日を過ごしてその会場に辿り着いたのか。たぶんこれからはそういうことまで考えてしまうような気がします。そんな気持ちにさせてくれるZINEでした。
また、ストーリーだけでなく、実際にある映画のカットを引用したコマがあったり、各話ごとに用紙の色が変わっていたり、奥付の日付だったり、細かいところまでこだわりが詰まっていて作品としての質がとんでもなく高くて、よくぞまあこれまでこのZINEを知らずに生きてきたなと紹介してくれた西川さんへの感謝が止まらず。結果として西川さんに寄せる信頼がより強固なものになったわけです。
『マッチングシンドローム』(すなば)
そんな西川さんの出版レーベル(トーキョーブンミャク)から出た『マッチングシンドローム』も素晴らしい作品です。「さんぽぶんこ」というトーキョーブンミャクが新たに始めたシリーズの第二弾(ちなみに第一弾『はなればなれ』は西川さんの作品です)で、すなばさんによる連作短編小説なんですが、こちらもまた切り取る箇所がとにかく絶妙で。ある男性の視点を借りて、その目線からマッチングアプリをきっかけに始まる男女の出会いについて描かれているのが、まるで擬似体験しているかのような臨場感で、実際にマッチングアプリを使っている人でも使ったことがない人でも楽しめるようなお話になっています。
先に紹介した『ON-GROUND CINEMA』にも共通するんですが、ZINE(に限らず書籍全般に言えることですが)の魅力の一つに「知らない誰かのこと(生活)を読むことで想像できる」ことがあると思っていて。そういう作品を読めば読むほどにその延長線上で自分の周りにいる他人にも関心を持つことができるような気がして好きなんですが、『マッチングシンドローム』も街中のカフェやバーで隣にいるような人たちの話が書かれていて、日常の至る所で今まさに同じような出来事が起こっているはずです。たぶん。自分が座った席の隣にいる人たちがたまたまそういう出会いの最中かも知れないし、そのやりとりに逐一耳を傾けるのはあまりにも野暮なのでしませんが、頭の中で想像するのは自由なのでもしかしたらそうなのかなとこっそり妄想することもあります。
『雑居雑感』No.2(田中謙太郎)
今回最後にご紹介するのは、といっても以前チヒロさんとこのZINEの話をした記憶があるのでもうご存知だとは思いますが、『雑居雑感』です。チヒロさんがされている「いつかなくなるまちの風景」を記す活動にも近いものがあるように感じられるのですが、『雑居雑感』はそうやって街の中に存在している営みの記録をものすごく絶妙なバランスで本の形に留めているように思えて本当に素晴らしいです。特にこの第二号では「場所を持続させようとする人」が取り上げられていて、この疫病下で愚直に場を保ち続ける生活をされている方々の話は(自身も場の存続に四苦八苦している身として)とても他人事とは思えず。著者の田中さんが「おわりに」で書かれていることに強く共感したので、抜粋して引用します。
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不確実性が一層強まったコロナ禍で、注目を集めるのは柔軟で場所を選ばない経営や働き方、生活スタイルだ。確かに一つの町の一つの場所に依拠し続けることは、窮屈でリスクを伴うものであるだろう。だが同時に、その場所に居続けるからこそ得る糧や喜びはかけがえないものだ。森本兄弟のように、新しい可能性を感じてやってきた人だっている。
(『雑居雑感』No.2,p41「おわりに」より引用)
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この「おわりに」は全文引用したいぐらいに良い(わかる)文章だったんですが、中でも上記の箇所がぐさっと刺さりました。今自分が営んでいる場(ブックバーひつじが)も基本的には一つの土地に依拠する形で成り立っていて、たまにこうやってインターネット上で店の外側に出てくることはあっても、それもあくまで軸足は常時店に置いた状態でのことです。経営的にこれは最善か……と頭を抱える日も少なくはありませんし、そもそも経営的なことを考えたらこの場所は(少なくとも今の形では)持続することは不可能だし、それがそもそも自分のやりたいことなのかと日々云々頭の中で考えながら店に立っています。
そんな土着的かつ不安定極まりない暮らしの中で、各地で同じように場を構えて土着的に活動されている方の話を読むことは自身の励みにもなるし、知らないところで頑張っている人の生活を想像することでその姿勢を見習わねばと己の背筋を伸ばすきっかけにもなるし、結局(自分の場合は)そういうZINEにこれまで何度も救われてきたように思います。いつの日か『雑居雑感』に取り上げられるような場になるように、引き続き精進します……!
今回特にテーマを決めて選んだわけではないんですが、蓋を開けてみたら「知らない誰かの生活を想像するZINE」に偏ってしまいました。そもそもそういうZINEが世の中で多く作られているのか、はたまた自分の関心が強い分野だから手元に多くあるのか。確実に言えるのは今後もそういうZINEを見つけたらまず間違いなく買ってしまうということだけです。
来月はいよいよ福岡で文学フリマが開催されます! その後すぐにこの往復書簡でチヒロさんに紹介できると思うと財布の紐も緩むこと間違いなしですが、またぜひ戦利品の報告にお付き合いくださいませ。そしてその前に届くチヒロさんのお手紙を楽しみにしてます。
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かもめと街のチヒロさんと毎月25日と10日にそれぞれのサイトでzineを紹介し合う連載を始めました。
次回更新は「かもめと街」です。
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