四月十八日(晴れ)
届いたばかりの『酒場の君』(武塙麻衣子)を我慢できずに読んでいたら、熊本から新刊と古本 sceneの店主が来店。福岡旅の合間で寄り道とのこと。販売書籍の取扱書店一覧で度々名前を見かけたのがきっかけでフォローしていた店の人がまさか来てくれるとは。そうとは知らず開口一番「今日は暑いですねぇ」と腑抜けた出迎えをしてしまった。たとえ知っていても暑かったことには変わりはないので、きっと同じ出迎えをしているとは思う。
関西方面に行く予定だったけど諸事情があって行き先が九州になったという氏から旅の話を聞く。一人で場を営んでいると外出=店舗休業になってしまうので、連日ひょいひょいと休むわけにもいかずもうしばらく県外に出ていない。だからこそ同じく個人で場を営んでいる氏が来訪先にひつじがを選んでくれたことが嬉しい。ここぞとばかりに本の仕入れや店舗でのイベント、周辺書店との関係性などに関する情報を交換する。エリアは違えど、場を構える人の話は何もかもが参考になって有難い。ちょうどひつじがでも販売している日記本『決めない散歩』の著者かもめと街 チヒロさんが東京から来店したので、注文も聞かずにそれぞれを紹介する。
熊本へと帰宅する氏を見送り、ほぼ入れ替わりで来店したチヒロさんと帯同していたせせなおこさんと話す。事前に来店の連絡を貰ってはいたけど、今回福岡来訪の目的のひとつがひつじがに来ることだと聞き、あらためて背筋が伸びる。猫背気味なので背筋は伸びるに越したことはない。むしろもっと伸びろ。どんどん伸びろ。
それにしても前にタコシェでたまたま見かけて買って読んだ日記本の著者とまさか福岡で、それも自店で話をする日が来るとは。ありがとうタコシェ。店で取扱している書籍の紹介(取扱の基準)や個人的に面白いなと思う本の話、某氏が今後作りたいものに関する話など。本に絡めた話が飛び交った。色々なZINEを手に取っては「この見せ方良いなぁ……」と呟く某氏の視点は完全に作り手のそれだった。
ひつじがで歌集を販売している某氏がヒツジガ通信の打ち合わせも兼ねて来店。取扱書籍の数が多いわけでもないので、同じ瞬間に作者同士が居合わせる機会は稀。通信の打ち合わせもそこそこに、先に来店していた某氏やせせさんに紹介。話に合流して、おすすめの和菓子屋やそれぞれの著作を紹介しあう。この日は珍しく本に携わる人たちが偶然居合わせた。こういう時間、もっともっと日常にしていきたい。
チヒロさんから「ひつじがもオンラインで本を売ってください」との申し出を受ける。準備段階のままもはや永眠に近い状態になっているECサイトがあります、早急に開設しますと自らを追い込む返答をする。何事も追い込まれなければ動けない。情けない。とほほ。
店を始めた頃に更新していた日報を久しぶりに再開することにした。かつて勢いよく始めたは良いものの、いつのまにか週報になり、月報になり、挙げ句の果てに某流行病の影響で長期で休業したのを言い訳に自然消滅した日々の記録。とうの昔に営業は再開し、書き留めておきたい出来事も何度もあった。ただ一度始めてしまえばまた続けなければならない。一度消滅させた実績がある以上、精神的にはイエローカードをもらっているようなもの。今度同じことをやろうものなら累積退場もやむなしである。
一方で熊本のsceneさんの週報(継続しててすごい)は度々見ているし、中々遠方に足を運べない身にしてみたら部分的とはいえ場の近況が知れるのは有難い。また、チヒロさんの『散歩するつもりじゃなかった』や『決めない散歩』を始め、いくつもの日記本を好んで読んでいる。違う場所で暮らす人が同じ時間をどう過ごしているのか、垣間見れるのは面白い。再開しない理由はないし、再開する意味はいくつもある。あとは契機のみ。誰か号砲を鳴らしてくれ。と思ってた頃合いで、(それこそ記録の意義を示してくれた)sceneの店主とチヒロさんが居合わせる。これ以上の契機があるか。ない。
チヒロさんたちを見送り、無人の店内で余韻に浸ってたら篠崎理一郎さんが来店。昨年篠崎さんが宮崎にあるフェニックスブルーイングを訪れた際に「絵を描くなら」とひつじがを紹介してもらったのをきっかけに、その翌日たまたまこちらもフェニックスブルーングに顔を出したら逆に「面白い作家が昨日来てくれた」と紹介され、それ以降さまざまなところで出会しそうになりつつ絶妙にすれ違いながら、ようやくの初対面。それから間も無く福岡を拠点に作家活動をしている某氏が来店し、画業に携わる人間の本音が炸裂する流れに。さっきまで本の話をしていたのに、同じ日の出来事とは思えない話題の変わりよう。
一方その頃テーブル席では福岡でお酒のイベントを催す某氏が直前の店で隣に座ったという韓国の二人組を引き連れて来店して、焼酎を勧めてくれてた。ついさっきまでせせさんが韓国への愛を熱弁していたので、あとちょっと早ければ(あとちょっと遅ければ)面白いことになっていたかもと思ったが、さすがにそれは欲張りすぎか。日本の焼酎自体が初めてだと言うので、ちんぐ夏上場の炭酸割を選ぶ。自分が韓国で「友達」ってラベルのお酒を出されたらどう思うだろうかと後になって考えはしたが、幸いその二人組は好意的に受け止めてくれて、帰り際には「ありがとう、友達」と日本語で言ってくれた。
テーブル席の団体を見送った後もカウンター席の談義は盛り上がっていて、その熱量は冷めることないまま閉店時間まで続いた。今は拠点を移しているけど篠崎さんも一時期は福岡で活動していたことがあるとのことで、その時期の福岡がどんな感じだったのかを教えてもらった。ひつじがを始めたのが2019年でそれ以前にここでどんなことがあったのかを知らないので、その渦中にいた人から話を聞けるのは有難い。そうやって福岡のアート界隈の輪郭を少しずつ探り続けてる。話の流れで某氏が「絵を売ろうとは思ってない。売れたらラッキーだけど、まずは見てもらえるだけでもうれしい」と言ってて、それってきっと本にも焼酎にも当てはまることなんだろうなぁってぼんやりと思った。
初日から飛ばし過ぎると続かないのは目に見えてはいるが、それでも溢したくない出来事が多い夜だった。三日坊主にならないことを(未来の自分に)願う。