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この連載はかもめと街 チヒロさんと好きなZINEをそれぞれ紹介しあうというコンセプトで始めました。毎月25日(シモダ)・10日(チヒロさん)の月2回、それぞれのサイトで往復書簡を公開します。前回のお手紙はこちら。
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かもめと街 チヒロ様
こんばんは。
前回のお手紙に”毎月25日になるとシモダさんからお手紙が届き、それから翌月10日まで「まだ時間あるな」とのんびり過ごしていると「明日じゃん!」と焦ったりして。”と書かれていましたが、それと全く同じ状況で昨日(24日)を迎えました。まるでワープしたかのように毎月気がつけば24日になっているので不思議ですが、同じく締切があることで輝く(というより締切がないととことんだらける)タイプなのでこのやり取りが本当にありがたいです。
『急がば踊れ 37歳のバレエ日記』、とんでもなく素晴らしいタイトルですね。つい最近とあるZINEの著者さんとお話する機会があって、その方が「ZINEはタイトルが大事」とおっしゃってたんですが、これを見るとその通りだなって思わず唸ってしまいます。すでにある言葉をもじった造語って捻りすぎるとわけがわからなくなってしまいそうなんですが、この「急がば回れ」は端的で、それでいてちゃんと中身がどんな本なのかが伝わってきて最高ですね。こういうタイトルを思いつけるようになりたい……
読んでいるうちに気づくと自分とも対話している日記、ありますよね。特に今たくさん出ている日記のZINEは自分と同じ時代を生きている人が書かれたものなので、随所で共通する点があり余計に「この時自分は何をしていたかなあ」なんて、読みながら同時に振り返ったりしています。
『かなしいときはおいしいものをたべまして』のデザイン、めっちゃ好きです。書店やイベントでたくさんあるZINEの中から一冊を見つけるときに、デザイン性だけで選んでしまうことがあります。CDのジャケ買いに近いと思うんですが。中身も見ずに買ってしまう。そうやって買ったものを帰って読むと全然自分の関心に合わなかったなんてこともあるんですが、そういう正解じゃないものをあえて手に取ることも必要だと思うし、しばらく経ってふと手に取っとら「あら、これ面白い……」ってなることも何度かありました。なのでやっぱりまずは手に取ってもらうことが大切だし、そのためにはデザイン(とタイトル)が重要……ってことは頭でわかっていてもいざ作るとなるとこれがむずかしい。この著者やチヒロさんの爪の垢を煎じて飲ませていただきたいです。
『三酒三様』はもはや言わずもがな大好きな本です。それにしてもチヒロさんの”お正月のMyojo”が秀逸すぎて。お店で本を紹介するときになるべく短い言葉で伝えるよう苦心しているんですが、これ以上端的に贅沢さを示す言葉はないですね。さすが。
チヒロさんがお手紙の中で触れられていましたが、三人で谷中を散歩してその様子をそれぞれの視点で書き下ろした企画、最高に素晴らしいですよね。今まで何度も飲みに行く機会はあったのにどうしてこの遊びを思いつかなかったのかと衝撃で倒れそうになりました。以降『三酒三様』を知っている人と飲みに行くときにはその人数に応じて「○酒○様ですね」と言うようになったし、いつか自分も誰かとこういうことをやってみたいです。と、このまま『三酒三様』の話をしていったら前置きだけで規定の文字数を超過しそうなので(ここまでで既に7割)、またの機会に取っておいて本題に入ります。
前回のお手紙でも最後にチラリと書きましたが、10月22日(日)に文学フリマに参加してきました。東京ほど爆発的な人混みはなかったですが、会場も1.5倍拡大して出店者の数も増え、福岡会場としては過去最高の動員を記録したらしくお祭りみたいでとても楽しかったです。今年も出店者側で出たので大半はブースで地蔵と化していましたが、途中ちょっと店番を交代してもらって、ぐるっと回ってごそっと買ってきました。自分が作ったZINEの売り上げがちょっと会場をうろついただけで別のZINEに変わっていて、あと何周か回ったら破産していたかもしれません。それぐらい魅力的なZINEが多くて購入したものの中から三冊を選ぶのですら大変なんですが、今回の戦利品を紹介させていただきます。
『ゴールデン街で一番の美女』(コエヌマカズユキ)
新宿ゴールデン街にある「プチ文壇バー月に吠える」の店主コエヌマさんがご自身の経験をもとにゴールデン街での出来事やそこで出会った人々について描かれた物語で、タイトルを見て迷わずジャケ買いしました。面白そうな気配がムンムンしたので。
帰宅後まっさきにこの本を手に取り、ちょっとだけ読むつもりが結局一息で最後まで読み切ってしまいました。めちゃめちゃ面白かった。冒頭に「事実をもとにしていますが、あくまでフィクションと認識のうえお読みください。」と書かれているんですが、それがなければ全て実話なんだとおもわず信じてしまいかねないほど描写がリアルで。出てくる登場人物もみんなゴールデン街という空間の中に「いそう」な人たちばかりで、読めば読むほどにあの一画の空気までもが伝わってきて、ものすごく良かったです。
福岡のひつじがにも時折ふらりとキャラが濃い人が来店することがあって、その度心の中で密やかに「ゴールデン街感」を味わっていたんですが、このお話を読んでまだまだ自分の認識(ゴールデン街の理解度)甘かったことに気付かされました。本場はすごいや……
『山本飯公式ファンブック vol.1』(バラエティ書店員・山本飯)
それぞれSNSでも大活躍されている書店員ユニット「バラエティ書店員・山本飯」の御三方(山中由貴さん、本間悠さん、飯田正人さん)によって作られた公式ファンブック。会場でそのうちのお一人本間悠さんと初めてお話して一瞬でファンになり、その勢いで手に入れました。ファンになった数分後にファンブックまで手に入れたのは生まれて初めてです。
第一号ということで自己紹介(個人的な50の質問と別に本にまつわる50の質問があって、それがまた良いです)やバラエティ書店員を名乗り始めるまでの経緯を語った座談会など、基本的な情報を知ることができます。まさに公式ファンブック。
さらにはそれぞれの8月の日記、さらには漫画や小説、映画ガイドにエッセイまで。この三人のことを知っている人でも知らない人でも楽しく読めるようなコンテンツが充実していて、さすが日頃から本を売っている人たちが作ったものだなと楽しく読み終えました。
実を言うと、いつか近所の書店さんと一緒に似たようなZINEを作りたいなぁと構想していたので、この本を読んで先を越されたと思ってしまいました。(笑)
前置きで書いた『三酒三様』の企画しかり、読んだときに面白さとは別の若干の悔しさみたいな感情が込み上げてくるZINEがたまにあって、そういうものを手に取るたびに世界の広さを思い知らされます。ただ、そういうZINEに出会えるのもまた喜びのひとつですね。
『教養としてのお笑い評論、あるいは30年史。』(手条 萌)
このタイトルを見たときに真っ先にお笑い好きなチヒロさんの顔が浮かびました。もちろん作品自体に興味があった(タイトルに「教養としての」って入ってるだけでコロッとやられてしまいます)んですが、それに加えてこの本は絶対にチヒロさんにも紹介せねばなという謎の使命感を持って入手しました。
表紙にもあるように著者の既刊3冊と書き下ろしエッセイ(「人はなぜ新喜劇で帰るのか」)で構成されていて、ポップな見た目とは裏腹に特濃なお笑い評論が終始繰り広げられています。過去30〜40年の間に起こった主な出来事や賞レースの受賞者など主要な情報もアーカイブされていてそこだけ読んでも面白いんですが、「お笑いの建て付け」がどのように推移してきたのかが著者の視点から論じられていて、とても読み応えがありました。消費社会の中でお笑いがどのように位置付けられているのか(位置付けられてきたのか)について触れらている箇所は特にハッとする部分も多かったです。
ひとえにお笑い好きと言ってもその中には色々な「好き」が存在していると思いますし、一部の人にとってはもしかしたら面白くないことが書かれているかもしれませんが(そういう意味ではもしかしたらチヒロさんに勧めるべき本ではないかもしれませんが)、仮にそれが合わなかったとしてそれはそれで合わないものを手に取るのも大切なことだと思ったので、己の直感を信じて紹介させていただきました。遠い未来で「あの頃のお笑いってどうだったかなぁ」とふと振り返りたくなった時に一冊持っておきたい本ではあります。
と、まだまだ紹介したいZINEがたくさんあるんですが、このままだとキリがないので今回はこの三冊で。他の本もいずれどこかで紹介しますね……!
来月はいよいよ文学フリマ東京が開催されますね。無事に新作の入稿も完了されたとのことで、お疲れ様でした。すでに色々な人が発売予定の新刊を告知され始めていて、文フリ福岡の熱も冷めないうちに欲しいZINEがどんどん増えていってるんですが、現地に行けないのでまたチヒロさんやその他参加される方々投稿を介して間接的に当日会場の熱量を感じたいです。チヒロさんがどういうZINEを入手されるのかも楽しみにしてます!
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かもめと街のチヒロさんと毎月25日と10日にそれぞれのサイトでzineを紹介し合う連載を始めました。
次回更新は「かもめと街」です。
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