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【全日本ZINEファンクラブ】11通目

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この連載はかもめと街 チヒロさんと好きなZINEをそれぞれ紹介しあうというコンセプトで始めました。毎月25日(シモダ)・10日(チヒロさん)の月2回、それぞれのサイトで往復書簡を公開します。前回のお手紙はこちら

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かもめと街 チヒロ様

こんばんは。

前回のお手紙で紹介いただいたZINE、どれも気になっていた作品だったのでとても気が合うなぁと思いながら楽しく読ませていただきました。『超個人的時間旅行』は許されるなら今回のお手紙でもまた紹介したいぐらい、いろんな人のエッセイを気が向いた時に読み返しています。

文学フリマ東京のあとに「#文学フリマで買った本」でどんな本を買われたのかをちょこちょこ見ていたのですが、前回チヒロさんが取り上げられたZINEを買われている方が結構いらっしゃいまいした。みなさんもしかしたら狙い撃ちされたのかもしれませんね。出店数が多いイベントだとそういう「いかに狙い撃ちしてもらうか」みたいなことも重要になってくるでしょうし、どうすれば狙い撃ちしてもらえるのかについてもZINEづくりをしているチヒロさんといつかお話してみたいです。秘訣はあるのか……

『園芸グランドスラム』の同梱の種を蒔くことで次回の出場権が得られる仕掛け、めちゃめちゃ面白いですね。ZINEをきっかけに日々の生活に園芸が入り込んでいくのも、それが結果的に新しい人たちを巻き込みながら次のZINE作りに繋がっていくのも、諸々の流れが素敵すぎる。なるほどな、と目から鱗がぽろぽろこぼれました。

そんな素敵なZINEに触発されてチヒロさんが来年どういうZINEを作るのかを楽しみにしつつ、年内最後のおすすめZINEを紹介させていただきます。

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『国立キャラクター大図鑑』(国立本店)

これは昨年夏、谷保にある小鳥書房で紹介してもらって訪れた国立本店で入手しました。国立本店は「ほんとまち編集室」の有志で運営されている本が好きな人が集まる場で、私物の本が並べられた棚があったり、本を読んだり喋ったりする空間があったり、経済の匂いが微塵もしない不思議で居心地の良い空間でした。その店内で一際目立っていたのが「まちの標本」と呼ばれる各々が自由に街の情報を書き込んでいる壁一面に貼られた大きな街の地図で、今回紹介する図鑑もこの標本をもとに作られています。店の看板や公園遊具、謎のオブジェなど街の中に点在する様々なキャラクターが網羅されていて、この本を片手に街歩きしたくなるワクワク感があります。谷保第四公園のイケメンゴリラに会いに行きたい……!

壁の地図に色々情報を書き込んでいくのも某NHK教育番組感があって素敵ですし、チヒロさんの「まちのタイル」にも共通しますが、読んだ後に自分が住む街を歩くときの視点(見る景色)が変わってしまうほどの影響力がある本だと思います。スペースがなくて断念しましたが、この本を買った直後は真面目にひつじがの壁に白地図を貼ることを検討しました。笑

 

『めいが通信集』(にしなか)

とあるお客さんがひつじがに持ってきてくれたZINEで、元々はお気に入りの映画を紹介するフリーペーパーとして配布されていたものが纏められた冊子です。表面はイラストと文章で映画を紹介されていて、裏面はその映画のチラシ風ポスターイラストになっています。リソグラフ印刷で毎号異なる用紙とインクが用いられていて、パッと目に入った感じや紙の触り心地が楽しくつい手に取ってしまいます。フリーペーパー時代には存在を知らなかったのですが、もしどこかで見かけていたら必ず手に取ってコレクションしていたに違いありません。

ここまで書いてもしかしたらお気づきかもしれませんが、現在ひつじがから不定期発行しているフリーペーパー「ヒツジガ通信」を作るきっかけになったのがこのZINEです。持参してくれたお客さんと「リソグラフでこういうペーパーを作るの楽しそうだね」と『めいが通信』を手に取って眺めながら話をしていて、諸々の構想を企画倒れにしたのち今の形に落ち着きました。表面がテキストで裏面がイラストの構成だったり、「〇〇通信」というタイトルだったり、影響を受けたのが並べると一目瞭然ですね。現状発行ペースが亀すぎて先が見えませんが、いつか「ヒツジガ通信集」の形で出せたらと思っています。

 

『これも地獄と呼ばせてほしい』(しりひとみ)

これ、めーちゃめちゃ面白かったです!!!

少し前にSNS(X)でおすすめされていたのをみて、その投稿に惹かれて勢いで買いました。書籍の購入に関しては基本的に現場至上主義(本屋で買いたい派)なんですが、近場で販売されてない本を自宅にいながら買える(それも夜中の三時に!)と思うとオンラインショップの存在もありがたいですね。ほいほい買ってしまうおそろしさはありますが……

最近Netflixで配信されたオードリーの若林さんと星野源さんの対談番組『LIGHT HOUSE』を見てめちゃくちゃムカついたという著者が、そのムカつきを発散するために作ったエッセイで、とにかく文章に疾走感があります。激流です。その流れに飲み込まれるかのごとく、手に取ったら途中で止めることができず最後まで読み切ってしまいました。

私ががっかりしている間も二人はあちら(はみ出しクリエイター)とこちら(はみ出さないデスクワーカー)とを切り分けて話しており、二人と私の間の溝はどんどん深くなっていった。次第に、なんかムカついてきてしまった。第三話で若林が「俺、飽きたんですよね」と言った場面では枕に顔を埋めて「チクショォーーッ!」と絶叫した。

(『これも地獄と呼ばせてほしい』p1より引用)

はみ出しクリエイター側の先端をひた走る両名の対談に全く共感できないはみ出さない側の著者(自らを「凡庸のミルフィーユ」と称する)が、自身の原体験を元にはみ出さない(はみ出せない)苦悩をものすごい衝動と熱量で書き上げているんですが、前述の「凡庸のミルフィーユ」然り所々に出てくる単語がユーモアに満ち溢れていて、本人にとっては別に面白い話でもないだろうに単なる自虐話ではなく何故かコメディのように読めてしまう不思議。まるで独演会を聞きにきたかのような、目ではなく耳に余韻が残る読後感がありました。『社会人大学人見知り学部 卒業見込』の頃の若林さんだったり『そして生活は続く』の頃の星野源さんだったりが好きな人にはきっとぶっ刺さるのではないでしょうか。

先の二つは場づくりの中で参考にしたのに対して、『これも地獄と呼ばせてほしい』は文章の書き方として参考にしたい点が多くあるエッセイでした。怒りや悲哀から生まれる文章にいかにユーモアを組み込むかは自身も常々課題意識を持っているので、ものすごい高水準でそれを形にしているものを手に取ると思わず胸がときめいてしまいます。今年最後に購入したZINEがこれだったんですが、とても良い本で締め括ることができた気がします。

 

来年の抱負(仮)

あれよあれよとそんな時期になりましたね。チヒロさんの新しいZINEものすごく楽しみですし、せっかくなので便乗して抱負を発表して終わります。といっても店を始めてからは毎年「潰さない」を抱負にしていて、今年もそれは継続したいと思っています。

今年はこうやってZINEについて語る場も増え、また自身もつくったり売ったりに一層力を入れるようになったので、来年はもう少しそこに余力を投じていきたいです。以前このお手紙でもお伝えしたかと思いますが、近隣の書店さん達と一緒にZINEを作る話もこそこそと進めており先日集まって打ち合わせ(井戸端会議)をしてきました。自分でモリモリ進めていくのももちろん良いのですが、誰かと一緒にものづくりをするワクワクはやっぱり堪りませんね。来年刊行を目指して鋭意準備中です。

また、先月末に宮崎で初めてZINEの即売イベントに参加しましたが、来年は各地のそういう催しにどんどん出店して積極的に行商をしていきたく。もちろん本を売るのが目的ではありますが、それだけではなく「ブックバーひつじが」の存在を日頃ZINEを手に取る方々に知ってもらうのをそろそろ真面目にやっていこうかと……。東京で開催される催しにも参加できたら良いなあと目論みつつ、かといって外に出過ぎると店が持たないのでそのバランスを見極めながらやっていきたいです。

そうやって県外に出るのも大切ですが、やはり場を構えている以上は周辺を盛り上げていかねばとも思っています。これはいつから始められるかわかりませんが、準備が出来次第ひつじがの場を使ってZINEを売る催しを定期的に(毎月?隔月?)やっていきたいなあとも思っています。現状福岡にもZINEの即売イベントはいくつかあるので、それとぶつからないようにしながら隙間を縫う感じで小規模な催しを開きつつ、周辺の作り手さんたちと一緒になって(あるいは県外からゲストを呼んで)ZINEのジャンルを盛り上げていけたらなあ……ということをほんのり考えています。せっかく自由に使える場を持っているので、使わない手はないなと。

駆け足の発表になりましたが、今はそういうことを考えています。欲を言えばもっといろんなZINEに参加したいなぁとか寄稿したいなぁとかなんて願望はどんどん出てきますが、そういう考えが湯水の如く出てくるのもこの一年を通してチヒロさんをはじめ多くのZINE製作者さんたちとやりとりをさせていただく機会に恵まれたおかげだと思います。

今年も一年、たくさんのZINEを紹介していただきありがとうございました。来年も「全日本ZINEファンクラブ」の名に恥じないような活動を心がけて、津々浦々のZINEを発掘していきたく思います。……なんかこれが一番抱負っぽいですね。

来年もたくさんZINEの話をしましょう。まずは年明けのお手紙楽しみにしてます。

それでは、少し早いですが良いお年を。

シモダ

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かもめと街のチヒロさんと毎月25日と10日にそれぞれのサイトでzineを紹介し合う連載を始めました。

次回更新は「かもめと街」です。

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