>>白金ニューヒツジホテル

【全日本ZINEファンクラブ】1通目

かもめと街 チヒロ様

今年の春にご来店いただき、zineの話で盛り上がり、その勢いで五月の頭にzineを紹介しあう往復書簡のお誘いをいただいてから早数ヶ月、あっという間に季節は夏になりました。湿気と熱気にじわじわと体力を奪われる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?

身の回りでzineの話をする機会も限られているので今回のお声がけはとてもうれしく、どういう形でやりとりするかを話し合う間にもいくつものzineを手に取り、流れでぽろりと「これ読みましたか?」とこぼしてしまうのを我慢するのが大変でした。せっかくならこの場を借りて紹介したく、またチヒロさんにご紹介いただくzineを楽しみにしながら、暗中模索、探り探りで書簡を綴ります。どうぞ末永くお付き合いくださいませ。

さて、早速本題へと入らせていただきますが、前述の通り今日に至るまで数ヶ月の猶予がありました。時間はあればあるほどいいというわけでもなく、日々着実に積み重なる面白本の山の中から満を辞して最初の一冊に何を選ぶのか迷いに迷い、うろうろしながら何度も通り過ぎたのが『まじめにふざけて(そだたべBOOKS)』という本でした。数年前、たまたま旅の合間に立ち寄った駅前の商業施設の一画にあった新潟本コーナーで一目惚れ。本を買いに行くぞという気持ちで行った本屋ではなく、新潟土産を物色するぞという訪れた場所でまさかあなたに出会えるなんて。あの日確かに雷が落ちました。

表紙写真の賑やかさだけもこの場所がチェーンのコンビニなのが信じられないですが、そんな新潟市中央区大島にあるデイリーヤマザキ新潟大島店がぎゅぎゅっと徹底的に特集されています。どのページを開いても自分が知っているデイリーヤマザキのそれじゃないことばかりが書かれていて、もはや夢か幻かと頬をつねりたくなりますが、その溢れ過ぎた個性に人が惹かれてしまう気持ちがわからなくもありません。むしろ自らも場を運営する立場であるので、ごちゃついているのに統一感があるそのバランスに感動すら覚えてしまいます。計算して再現できるものではないと思いますが、未だこっそりと場づくりのお手本にしているzineです。

のっけから高カロリーな本ばかり続いてしまいますが、ピストン藤井さんの『飛び出せポンコツ!なくせインテリジェンス!日本海食堂大百科』も同様の雷を受けたzineです。蔵前にあるReadin’Writin’BOOKSTOREに初めて訪れた際に店内の片隅で見つけました。奇しくも先に紹介した『まじめにふざけて』もですが、僕はどうやら写真背景黄色文字タイトルの本に弱いみたいです。そういうカテゴリが存在するのかは謎ですが。

少し前に『どこにでもあるどこかになる前に。〜富山見聞逡巡記〜』(藤井聡子/里山社)を同じ著者が書いた本だと知らずに買って、その中に収録されていた日本海食堂に関するエピソードを読んだのをきっかけに再び引っ張り出してきて読み返しました。相変わらず脳はクラクラ目はチカチカしましたが、エッセイで別の角度から触れたおかげか日本海食堂に対して不思議な親近感が芽生えていることに気がつきました。まさかの副読本的効果。商業出版されている書籍とzineの距離が縮まってきているのを肌で感じた読書体験でした。こういう体験をするとますます辞められないなぁって思います、読書。

そんなこんなで気に入ったzineを繰り返し読むことも多いのですが、先月は久しぶりに県外に出る機会があり、東京や大阪で本屋を梯子してたくさんのzineを入手しました。今はオンラインでも購入できる便利な時代ではありますが、本屋の店頭で出会った方がのちの記憶に残るような気がして(上記2冊がまさにそう!)、なるべく現地に足を運ぶようにしています。特にその場の店主が書いた本はなるべくその店で買いたいなという変なこだわりがあり、通販で買ってすぐに読みたい気持ちを抑えながら、大阪にあるシカクを訪ねてようやく『シカクはこうしてこうなった④』(たけしげみゆき/シカク出版)を手に入れました。店頭で実物を見つけた時の喜びはひとしおだったので、耐えてよかったです。ありがとう自分。

「書店シカクの運営振り返り記」とあるように、今日に至るまでのシカク(と代表たけしげさんの生活)の推移が限りなく赤裸々に綴られていて、ぜひ①から順に読むのをおすすめしたいのですが、今回の④も波瀾万丈すぎて最後までページを捲る手を止めることができませんでした。店をやっていると時折予想外の出来事が起こることがありますが、自店のそれら全てが取るに足りなく見えてしまう衝撃の数々。都度の逆境を乗り越えてきたたけしげさんやシカクに関わる人たちの姿勢に尊敬の念すら抱いてしまい、なんとかせねばとサバイブしてきた様が「こうして」の部分に詰まっています。なんて素晴らしいタイトルなんだ。

ランダムに選んだつもりですが、結果三冊ともに自店(ブックバーひつじが)にとっての理想系とも言える場所の歴史を紹介しているzineになってしまいました。関心ごとの中心には常に自店が存在しているので、そうなるのも不思議ではないですが、とはいえ今回紹介したzineを参照しながら場づくりを続けていったらこの先いったいどうなるのか。興味半分、恐怖半分です。いつかひつじがから黄色文字タイトルの本が出る日は来るのか……。そんなことを夢見ながら筆を置かせていただきます。

シモダ

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かもめと街のチヒロさんと毎月25日と10日にそれぞれのサイトでzineを紹介し合う連載を始めました。

次回更新は「かもめと街」です。

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