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この連載はかもめと街 チヒロさんと好きなZINEをそれぞれ紹介しあうというコンセプトで始めました。毎月25日(シモダ)・10日(チヒロさん)の月2回、それぞれのサイトで往復書簡を公開します。前回のお手紙はこちら。
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かもめと街 チヒロ様
こんばんは。
前回のお手紙、まさか自分がつくった本(ひつじがZINEセット)の感想まで書いていただいてるとは思わず開いて驚きました。サプライズがお上手。ですし、「シリアスのお面をかぶったコメディアン感溢れる文章」とのコメント、見透かされているようでドキッとしました。
シリアスな出来事をシリアスなまま伝えることに抵抗があって、どんな些細な文章でも読む人の時間を奪う以上は多少なりとも楽しんでいただけたら……と日夜試行錯誤しているので、その部分を感じ取っていただけたのが素直に嬉しいです。今後とも精進します。押忍!
また本の紹介だけでなく最後にトピック(「ZINEの循環」ってタイトルがまた良い)まで設けられていて、回を重ねるごとにチヒロさんの紹介がレベルアップしているのが一読者として嬉しいです。手に取ったZINEがたまたま猫まみれになるのもリアルタイム感があっていいですね!
ひらいめぐみさんの食にまつわる感性、本当に素晴らしいですよね。前回のお手紙の中でも触れられてましたが、『おいしいがきこえる』を初めて読んだときに僕もそれを強く感じました。視点が独特というか。言い回しも斬新で、こんな世界の見方(切り取り方)もあるのかといちいち感動したのを覚えています。
そういった意味ではチヒロさんが書かれている「ひらいさんがどんな風に装丁をリクエストしたのか」は気になるし、どんな風に物事を考えているのかを聞けるイベントがあったら楽しそうですね。そして、どんな風に物事を考えているのかを知るのに日記はもってこい。『踊るように寝て、眠るように食べる』も楽しく拝読しました。
その他紹介されている猫の本も表紙だけでもすでに猫のかわいらしさが存分に伝わってきて素敵ですね。実を言うと軽めの猫アレルギーを持っているんですが、本ならそれを気にせず手に取れそうです。笑
さてさて、せっかく「〇〇まみれ」で紹介いただいたので僕もそのルールに則って紹介しようかなと思ったんですが、それより何より前回から今回にかけて文学フリマ東京やNewgraphy(福岡開催のアートブックイベント)があって新しいZINEを手に取る機会に恵まれたこともあり、せっかくなので今回はそちらから紹介させていただきます。
(「〇〇まみれ」縛りもいつかやってみたいです……!)
『超個人的時間旅行』(タイムトラベル書店)
チヒロさんもXで紹介されていたのを拝見しました。すでに知っているものをここで伝えるのもなぁと思う反面、やっぱりこれはどうしても紹介したいので少々お付き合いください。だって凄くないですか。執筆陣が豪華すぎる。本当に好きな方ばかりで、当然どの話を読んでも抜群に面白くて……なので、勝手に「ベストアルバム」と呼んでます。
短い文章の中で50億年スパンで時間を超越している藤岡みなみさんの「地上の太陽」や、自分が小学生の頃に下校していた街並みを思い出す(読みながら脳内で時間旅行する)スズキナオさんの「タイムトラベルな散歩」、誰しもが知っている昔話をこれまでにない新たな視点から語り、さらにはそれによって時間の正体までもを暴き出すワクサカソウヘイさんの「ウラシマタロウ」、これを読んでしまったらもはや目に映るもの全てがタイムマシンに見えて仕方がなくなる上田誠さんの「すべてはタイムマシン」などなど一つ一つの魅力を語るだけでもう文字数と時間があっという間に蓄積されてしまうほどに魅力的でたまりません。
中でも古賀及子さんの「積もってたまった西小山」はまずタイトルの語感が素晴らしくて、それこそ墾田永年私財法みたいに声に出して読みたくなるんですが、それを踏まえて話を読んでいくと本当にタイトルの通りのことが書かれていて、読了後に改めてタイトルを読んだときにその名付けの「これ以上ない的確さ」にやられました。……この感じで話していくとあと二冊紹介する前に燃え尽きそうなので、この続きはまたどこかでぜひ。
『BeːinG 壱』(はおまりこ・かわかみなおこ)
先日の文学フリマ東京で発売された「怪異と遊ぶマガジン」の創刊号で、制作者のお一人(かわかみさん)が別で作られていた『mg.』という食べものをめぐるZINEに今回ゲスト寄稿させていただいた流れで、こちらのZINEの存在を知りました。テーマが「妖怪と遊ぶ」で、その言葉通り頁の隅から隅まで全力で遊ばれています。画像では伝わらないんですが、表紙の箔押しが本当に芸が細かくて素晴らしいので、これは是非とも実物を触って確かめていただきたいところです。
「荒木家妖怪絵巻全図公開」は資料としての価値がとても高く、またこの特集を組まれた経緯が、福岡在住の荒木さんが「なんでも鑑定団」にこの絵巻を出されていて、それを見たのがきっかけで取材に及んだというのも、その熱量の高さがうかがえてとても素敵です。それもあって制作のお二人がひつじがにも遊びに来てくださって、福岡で店をやっていてよかったなぁと、それもまた不思議な縁を感じました。
『カルチャー・編集・ローカリティ −地方で本をつくること、そして売ること 野良エディターと、野良の本屋のここ数年の手探りについての放談』(堤大樹・早坂大輔)
2023年の4月に山形県で開催されたトークイベント「カルチャー・編集・ローカリティ-地方で本をつくること、そして売ること」の内容をまとめられたいわゆる議事録的なもので、これはNewgraphyで入手しました。
トークをされているのは『ANTENNA』というメディアの運営をしながら『OUT OF SIGHT!!!』などの雑誌を作っている堤大樹さんと、岩手県で本屋『BOOKNERD』を営まれている早坂大輔さん。お二人ともに出版事業もされているので、それぞれの活動の話はもちろん、本作りや流通に関する細かい、そして生々しい話をされていて読み応えがあります。
そして何よりこの本の面白いところは、会場にあった印刷機を用いて、その日のうちに文字起こし(AIを駆使して)から印刷、さらには製本までやってしまったというそのスピード感。会議などで議事録を取って直後に共有することはありますが、そのノリでそこそこボリュームのあるトークの内容がその日のうちにZINEで手に取れてしまう凄さ。読後、なんだかこのイベントに参加していたかのような錯覚に陥りました。
大きな落丁があったり途中から行が思わぬ方向に傾いていたりと所々に味わいはあるものの、それすらも疾走感を際立たせる要因になっているかのように読めてしまうし、その大味を許せる(?)のもZINEの良いところなのかなあ、と思います。今や簡単な文字起こしはAIが代替してくれる時代だし、こういうその日のうちにコンテンツを作るような試みはいつか自分もやってみたいです。
地方イベントの可能性
先日の文学フリマ東京、お疲れ様でした。タグを駆使して目当ての本を探しつつSNS越しにその盛況ぶりを拝見していましたが、今回また一段と盛り上がってましたね。来場者数が一万人を越えて驚いていた前回を上回る来場者数。文学フリマ福岡のおよそ10倍。数字で凄さを実感しました。次回からは参加費がかかるようになり、来年暮れには東京ビッグサイトで開催。その勢い、止まる所知らずですね。
東京開催の文学フリマにはまだ参加したことがないですが、すでにその規模の大きさに若干びびっています。とてもじゃないけど一日で全てのブースをまわれる気がしないし、ましてや一つ一つの作品をじっくり吟味できる自信がありません。それどころか面識がある方に挨拶をするだけで日が暮れてしまいそうで、頭の中で何度かシミュレーションをしてみたんですがことごとく惨敗しています。参加してないのに。
大好きな著者さんがカジュアルに制作したものを手に取れる喜びはもちろんありますが(とても嬉しい!(、仮にも「全日本ZINEファンクラブ」を名乗っている以上(そうでなくても)有名無名に関わらず面白いZINEを掘り出したいぞ! 私は! という気持ちも忘れずにいたいです。
そうなってくると先に開催された文学フリマ福岡の規模感が全ブース回って気になったZINEを手に取るのには(自分的には)ちょうど良いというか、むしろもっとブース数杯少なくても良いかも……ということで明日(26日)に宮崎県で開催される自主制作本の即売会に出展してきます。果たしてどうなることやら……その感想もいつかお伝えしますね。
東京ほどの規模ではないものの福岡をはじめ各地でもZINEを販売するイベントは開催されていますし、東京でもカウンター的な位置付けて小規模なZINEの販売会が開催されているのを度々目にします。来年以降、そういう他県で開催されている催しにも少しずつ顔を出して行きたく思っていますので、ぜひ出店者の先輩として色々とアドバイスを頂けたら嬉しいです。と、手紙だということをここにきて思い出したので、投げかけて筆を置かせていただきます。
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かもめと街のチヒロさんと毎月25日と10日にそれぞれのサイトでzineを紹介し合う連載を始めました。
次回更新は「かもめと街」です。
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