五月二日(晴れ)
開店前、かもめと街 チヒロさんから錦糸町で五月六日から開催される個展『いつかなくなるまちの風景』のDMが届く。添えられていたお手紙を読んで嬉しさが沸々とこみあげた。
ナガノさんと秋の文学フリマで出す予定の共作ZINEについて打ち合わせ。文学フリマには昨年初めて出店したが、その時持参した自作(30冊)だけをブースに並べた状況があまりにも寂しかったので、今年は複数種類用意すべく色々な人に共作を持ちかけている。締め切りはすでにある(今秋)ので、それまでに何冊用意出来るか。はたまた出来ないのか。
事前にナガノさんから送られてきた写真をもとに話を進めたが、それまでにも何度か意見や思想の交換をしていたこともあり、するすると構想が浮かんだ。気配。街に残る残滓を形にしたいですねとナガノさんがいうので届いたばかりのDM(いつかなくなるまちの風景)を共有。あまりにも(考えていたものと)近すぎて驚いていた。漠然としたテーマをどれだけ形にできるか。とりあえずそれぞれしばらく素材を集めることにして、開店時間を迎えたのでそのまま営業に移った。と言っても早い時間帯に来店者が訪れる方が稀なので、引き続き打ち合わせとも雑談とも取れる話をしながら将棋を指した。対局中に「少し前から日報をつけ始めたけど、来店者が少ない日は書くこともなくて困る」と溢したら、今日は将棋を指したって書けますねと返ってきた。将棋道場みたいにならないことを祈る。
ナガノさんを見送り、入れ替わるように某氏が来店。開口一番コマンダンテが解散したと伝えられ思わず大きな声が出る。SNSを検索すると確かに解散との速報が出ていた。15年続けたコンビを解消するってどんな感じだろう。誰かと15年間コンビを組み続けだ経験はないし、想像もつかない。今からそれを経験しようと思ってもわかるのは15年後。果てしない。その後某氏と今催されている漫才トーナメントTHE SECONDの話をする。某氏はお笑いフリークなのでお笑い(特に地下のそれ)に関して含蓄があり話を聞いていて面白い。そんな某氏ですらどのコンビが優勝するか予想が難しいと言っていた今大会。結果が楽しみ。
お笑いの話から何故か誰かと縁を切りたいときは勝俣の写真を送るという話になり、その時たまたま来店したイクシマさんにそれを共有し、某氏から勝俣の写真を共有してもらう。効果は某氏の経験上凄まじいらしく(某氏曰く「逆美輪明宏」)、使う日がきてほしいものではないけども万が一その時がきたら試してみたい。画像が欲しい方は店頭にてその旨耳打ちしていただければお送りします。某氏曰く、昔すぎてインターネット上にも出てこない代物とのことです。
近くのカフェに勉強をしに行くと言って店を去る某氏を見送り、イクシマさんに最近読んだ『専業画家』や『アジア「窓」紀行』の話をする。読んだ本の感想を伝えるべき人が読後まもない内に来店してくれるのは嬉しい。そこから福岡の美術業界の話、場づくりの話へと流れるように話題が移行していった。とある場所がSNSをきっかけに若者で溢れかえるようになったと言ったらイクシマさんの知り合いにも同じような状況になった店があって、そこの人に話を聞いたら「席数は決まっているのでやることは変わらない。ただ流れに沿うだけ」と言われたとのことで、まるで川みたいですね、と返した。ある情報をきっかけに、そこに瞬間的に人が流れていく状況は本当に川のようで、そこに集まる人たちは絶えず流れる水のよう。全体をぼんやり眺めるとそれは確かに「川」の形態をしていても、よくよく見るとそこを流れる水は常に異なるもの。同じ水を見続けることは出来ない。そして川は周囲の地形を削っていくが、川がそうしたくてそうしているわけではなくて、水の流れなどで自然に起こるもの。これって街や場でも同じ状況があるよね、と話す。
流行らないようにバズらないようにと常に細心の注意を払い続けていたのも(そんなことをしなくても流行らないとは思うが)、心の中で場が「川」になることを、川の流れの一部に取り込まれることを避けていたんだとハッと気づく。自分がつくりたいのはそうじゃなくて、例えるなら「水たまり」のような場所。水が溜まればそこに藻や植物が生え、生物が湧く。流れの中では生まれない、そうやって生まれていくものに惹かれる。誰だかわからない人たちを顔も見ないまま相手にするのではなく、ある程度同じ水の中を(それが腐ってしまわない範囲で)一定期間覗き続ける場なのかもしれない、とまだ曖昧だがそれとなく答えのようなものに近づいた手応えを得る。そのためにこれまでの間この土地に窪みを掘り続けてきた。いつ降るかわからない雨が降った時に、ちゃんとそこに水が溜まるように。みたいな話をしていたら、そういえば最近買って読んでると『ゲンロン』の最新号をイクシマさんがカバンの中から取り出して見せてくれた。たまたま開いた頁に「パサージュ(小路)は人間の水族館」という言葉があって、そう、そういう場所を作りたいんだと思わず唸った。