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【全日本ZINEファンクラブ】31通目

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この連載はかもめと街 チヒロさんと好きなZINEをそれぞれ紹介しあうというコンセプトで始めました。毎月10日(チヒロさん)・25日(シモダ)の月2回、それぞれのサイトで往復書簡を公開します。前回のお手紙はこちら

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かもめと街 チヒロ様

本当なら昨年末にお手紙のお返事をお送りするはずが、ばたばたしている間にあっさり年を越してしまいました。改めまして、あけましておめでとうございます。

今年の正月は実家でインフルエンザが大流行。家族が漏れなく感染してしまい帰省ができず、久しぶりに福岡で迎えました。店も開けず予定もない日々を福岡で過ごすのも滅多にないので思い切ってあらゆるSNSから距離を置いて、ゆっくりテレビを見たりお酒を飲んだりして、心の落ち着きを取り戻すことができたような気持ちでいます。チヒロさんは年末年始はいかが過ごされましたでしょうか。

前回のチヒロさんからのお手紙がちょうど文学フリマ東京のあとで、チヒロさんが制作した『たらふく』をはじめ、たくさんの新しいZINEやリトルプレスが世に出て、ひつじがでもそれらの入荷関連で連日お祭りのようにわたわたしていました。(この連載をしているからでしょうか)有難いことにお取り扱いのご相談をいただく機会も増え、情けないことにその回答をお返しするのが全く追いついていない状況が続いていて。改めて日々たくさんの書籍をお取り扱いされている書店さんの凄さを実感しています。

とはいえ別にたくさんの書籍をお取り扱いしたいかと言われたらそんな訳でもなく。あくまでも販売書籍に関しては自分が読んで面白かったと思うものや好きな作家さんのもので、かつ福岡での入手先が限られているorそもそもないものにしたいという気持ちは変わらないので、時間はかかっても丁寧に読んでいきたいと思う所存です。いきなり結びの言葉みたいになりましたが、まあ新年の抱負ということで。気を取りなおしておすすめの作品を紹介させていただきます。今年もどうぞお付き合いくださいませ。

 

『ハイパー・アンガー・マネジメント』(しりひとみ)

以前のお手紙でご紹介した『これも地獄と呼ばせてほしい』の作者しりひとみさんが先月の文学フリマ東京で出した待望の新作です。もうとにかくこの方が書く文章がすさまじくて。一度読んですっかりファンになってしまい、今回しりひとみさんが文学フリマに出ることを発表されて以降ずっと手に取るのを楽しみにしていました。

本書には大きく分けて三つのエピソードが収録されていて、どれも過去の我が身に起こった災難とも呼べる出来事を綴り、その当時違和感や悲しみを感じつつ何も言い返せなかった自分に変わって現在の自分が物申す(溜め込んだ怒りを発散する)という構成になっています。行き場のない怒りも時間が経てば解決する。かと思いきや全くしてなくてむしろ低温で沸々と蓄積されて恨みの炎が燃え上がる。その爆発を読み物にする形で昇華させた新しいアンガーマネジメントの形。

それだけでも斬新ですが、一つ間違えば後味の悪い読み心地にもなりかねないテーマを類稀なるワードセンスとユーモアで面白おかしく読ませてしまうしりひとみさんの地肩の強さをこれでもかと言わんばかりに感じました。ただ読むだけでも面白いですが、現時点で目の前の誰かに対して言い返せない何かを抱えている人にとっては、未来の自分がそれを言い返せるようになるまで溜めておくというやり方があることを知ることができるという意味で救いにもなるのかな。僕も今後は煮え切らない出来事に出会ったら美味しく料理できるまで低温であたため続けようと、この本を読んで思いました。

『Something-good』(オルタナ旧市街)

2024年には商業出版デビューも果たし、今をときめく作家の一人として名を連ねているオルタナ旧市街が新たに出した私家版散文集で、こちらも先月の文学フリマ東京で初売りされていました。旧市街民であれば必ず入手したい一冊。文学フリマ現地参戦が叶わず一度は諦めかけましたが、その後ひつじがでお取り扱いするというウルトラC対応(職権濫用)により無事手に取ることができました。

文章が素晴らしいのはもはや言わずもがなですが、それだけに留まらずきらきらと輝く表紙や本文用紙の色味など細部に至るまでオルタナ旧市街の世界観を味わえるのも私家版の醍醐味。初めて同作家の『一般』を手にしたときに開いて中身を見る前から宝箱を開けるときみたいにわくわくしてしまったんですが、今作でもそれに似た気持ちを味わえたし、オルタナ旧市街の作品は自分にとって宝物みたいな位置付けにあるような気がします。

ちなみに本書の中に何度かキムタクにまつわるエピソードが出てきますが、それを読んだ流れで年末年始に「グランメゾン東京」のドラマを一息に観て(ちょうど年末特番もやっていたのでそれも観て)、その流れでキムタクにハマってしまいYouTubeを観て、その流れで久しく足を運んでいなかったカルディやガストにも通うようになりました。流石に(キムタクとオルタナ旧市街の)影響を受けすぎていて、少しこわいです。

『ATHÉ』

ある日ひつじがに大きなスーツケースを抱えた方がやってきて、それがあまりも大きかったので何が入ってるんですがとふと尋ねたら、「ZINEを売ってまして……」と荷物の中から出てきたのが一見ポテトチップスみたいなこの袋でした。

袋の中には、隅々までびっしりと文字が詰まったペーパーが折り畳まれて入っていて、それがちょうどビール2杯分の”アテ”として楽しむことができる読み物になっています。気になったので閉店後実際にビールを飲みながら読んだんですが、確かに一杯飲み終わってもまだまだコラムは残っていて結果的に二杯飲んでしまいました。もちろん個人差はあるかと思いますが、一杯で終わるほどあっさりはしてないし、二杯飲んでも読み終わらないほどのボリュームでもない。ちょっと人を待つ時間や束の間の退屈を潰すのにピッタリぐらいに作られていて絶妙ですし、チヒロさんもビールを嗜まれると以前のお手紙で書かれていたと思いますので、入手する機会があればぜひお試しください。

ちなみにこちらのZINEを作られている方はひつじがに来る前に福岡で別の書店さんに行かれたらしいのですが、「こういう本を売るなら行ってみたら」とそこの店主さんに言われてきましたとひつじが来店時に教えてくれました。そこで名前が上がらなかったらおそらくこのZINEは手に取っていない(もしかしたら別の機会で入手するかもしれませんが)ですし、ただただありがたかったです。

このお手紙のやりとりもですが、続けていると周りの方も次第にひつじがをそういう場所として認識してくれるようになってきて嬉しいですし、一方でまだまだ伝わりきってはいないのでこれからも地道に続けていきたいなと思った次第です。

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年が明けてからまだまもないのにチヒロさんは早速文学フリマ京都やその翌日には書店さんでのイベントなど活発に動かれていて、相変わらずすごいなあと刺激をもらってばかりです。爪の垢を煎じて飲みたい……!(その前に動け、って話ですが)

ひつじがもなんとかかんとか来月で6周年を迎えることができそうで、今はそれに向けての準備をしたり、あとは年明け早々に絵日記本の原画展を催したりと何かと慌ただしくなってきました。が、どれだけ忙殺されても冒頭で書いたように今一度お取り扱いしている書籍やまだ見ぬ面白いZINEにしっかりと目を向けて、読み込んでいくことを大切にしながら、しっかり地に足をつけて頑張っていこうと思います。また今年も何かしらのイベントでご一緒できたら良いですね。

相変わらず諸々の病が流行っていますので、チヒロさんも体調にはお気をつけください。次回のお手紙楽しみにしています。

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かもめと街のチヒロさんと毎月25日と10日にそれぞれのサイトでzineを紹介し合う連載を始めました。

次回更新は「かもめと街」です。

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