>>白金ニューヒツジホテル

日報(230529)

五月二十九日(曇り時々雨)

定刻開店のち20時頃まで凪。作業をしたり、この日から平日5日間ゲスト出演した福岡のローカルFMのラジオ番組を某ラジオアプリのタイムフリー機能を使って聴くなどして過ごした。20時を過ぎて間も無く某氏が来店。めぐるね白金の連載を読んで『会社員の哲学』が気になったとのこと。有難い。数日前に香川県にいて、な夕書(ちょうどドアが破壊された日)に立ち寄ったと座った席の近くに置いてあったなタ書のフライヤーを見ながら教えてくれた。香川県で暮らしていたこともあるとのことだったので、香川にある色々な場所の話を聞いた。まだ足を運んだことはないけど、なぜか所縁のある人が訪れてくれて街の話を聞かせてくれる。波長が合うのか。聞けば聞くほどに香川への想いは募るばかり。

某氏と引き続き「波長」の話で盛り上がる。行ったことのない香川や(長野、あと行ったことはあるけど宮崎)に惹かれたり、その土地に所縁のある人たちがなぜか集まってくるのもそれぞれが持つ波長が関係しているような気がして、最近は自身の波長や場の波長を意識的に捉えるようにしている。波長って言葉を使うと少し精神性が高すぎる気がしないでもないけど、要はそれと接していて心地よいかどうか。その感覚。

少しだけ細かい話をすると、店(ひつじが)と自分の波長も微妙に異なっている。店を始めた頃から常に頭の片隅に置いている考えの一つに「ひつじがは自分だけの場所ではない」というものがある。何を今更当たり前の話をと思われるかもしれないけど、場の規模が小さければ小さいほど関わる個人の影響はどうしても色濃く出てしまうし、それがちょうど良い範囲内で収まれば「味」にもなるんだろうけど、少しでも油断をすると自らの好みに場が偏り過ぎてしまう。店の私物化。自宅のような空間を作りたければそれでも良いかもしれないが、ひつじがはそうじゃない。仮に自分がやりたいことがそれだったら家でやればいい。

場の波長(心地よさ)を御するのは場主(店の場合は店主)の勤めなのかもしれないけど、それは義務ではなくてあくまで場の波長を御する権利だと思っている。そしてその権利を家賃や時間や知恵や、その他諸々の対価(信用)を支払うことによって得ている。なのである程度は場に対して意見をすることができるし、だとしたら同様に何かしらの対価を支払って場にいる人たちにも(その対価に応じて)権利があることになる。極端な話一杯飲み物を頼んだり一冊本を買ったりすることで(それに相応する)場に意見する権利を有することになる。事実そうだと思っているし、それが蓄積して場の波長(自らの波長と微妙に異なるそれ)が出来上がっている。と思っている。あくまで権利(義務ではない)、絶対に行使しなければならないものではないし、一方でその権利を行使する人が増えれば増えるほど、相応の対価が場に流れることにあるので場の存続につながる。自分の店だから私物化しても文句は言われないが、その場合は対価も自分で負わなければならない。そうじゃなくて、自らも場から少し離れた位置に立ち、同様にそれぞれの位置に立っている誰かと一緒に場を眺めるような形を作ることが、(少なくともひつじがにとっては)理想的な場の在り方。途中からすごくふんわりとしてきたけど、実際場を動かしながらそんなことをふんわり考えている。

ただ現実そんな思い通りにいくわけもなくて、何度も失敗して(自らの波長に合わせる方向に動いてしまい)その度閉店後に反省会を催している。あと何年これを繰り返したら自らの理想とする場に辿り着けるのか。果たしてそれまで場が持つのか。

話を日報に戻す。山口で学生団体を運営している某学生が来店。数年前に取材してもらった福岡移住計画の記事を読んで店を知ってくれたとのこと。自らもバー(学生バー)をやっているからか、着席数分で店のコンセプトを尋ねられた。せっかく来店してくれたので、実際に過ごしてみてどんな店か理解してほしい旨を伝え、その後お酒を選ぶ基準や選書や絵描きさんたちとどうやって知り合ったのかなど少し前にラジオでインタビューされた内容とほぼ同じ質問をされるので、その時答えたこととほぼ同じ話をする。繰り返し伝えることで自身の脳にも刷り込まれていくはずなので、こういう質問は何度されても有難い。話の流れで「どうやったら居心地の良い場所を作れますか?」と尋ねられたので、小鳥書房の本屋夜話を紹介しつつ(居心地について話している)、「居心地」って言葉が苦手だという話をする。何度となく話しているが誰かにとって居心地の良い場所は別の誰かにとって居心地の悪い場所になるかもしれないし、いつ誰が来店するかわからない中で、居心地の良さを求めて来店した人の期待に応えられない可能性も当然ある。なので、なるべく期待されないように、なるべくハードルをあげないように心掛けている。かといって居心地悪い状態であってもらいたいわけではないし、来店時より退店時の方が少しでも良い気分になっていてはもらいたいとは思っている。これまたバランスを取るのがむずかしい。

その後ナナシナさんやユカさんが来店し、それぞれの近況を聞く。終日のんびり営業だったこともあり、いつもより色々なことを考えた。