五月八日(晴れ)
連休明け初日。早い時間に某氏が初来店。焼酎を飲みながら店内に閲覧本として置いてあった谷川俊太郎の本を静かに読んでいたので、こちらもそれに合わせて静かに過ごす。ちょうど一杯飲み終わった頃に頁を閉じて本を脇に置かれたので、どこでひつじがを知ったのかを尋ねてみた。数ヶ月前に近くに引っ越してきて、近所の開拓がてら早い時間から一人酒を嗜み、もう一軒どこかに寄りたいなと思って近場のバーを検索したら出てきたので寄ってみたとのこと。中身がバーであるかどうかはさておいて、バーで検索して出てくるので面白い。飲みながら本を読むのって難しい(文字が滑る)と思ってやってこなかったけど、やってみたら案外良いですね、と言われた。その割には読書姿が様になってましたよと伝えつつ、別に文字が滑るなら滑るで良いし、毎回全てを理解しようと思わないで向き合うぐらいがちょうど良いんですよね、と自分が本を読みながらお酒を飲む理由を話した。教科書や参考書ならまだしも、重箱の隅を突くような読み方をすればそれは疲れるし、それをしなくても楽しく触れられる読み物はたくさんある。一度で理解できなければ二度三度読めばいいし、そうやって何度も同じものを楽しめることこそが豊かさですよね、みたいなことを某氏と話していた。こういう話ができる人が近場に越してきてくれたのが嬉しく、一人酒を極めたいという某氏に『酒場の君』をお勧めしたらこれも何かの縁なんでと言って一冊購入してくれた。良い縁。
ほくほくした気持ちで見送り、その後しばらく誰もこず、いよいよまずいなと思った頃に近くの酒場の大将が来店。いつもより数時間早かったので、おそらく早仕舞いしたのだろう。大将とは将棋をきっかけに仲良くなり、たまにこうやって自店を閉めた後に飲みに寄ってくれたり(暇な時は将棋を指す)毎月第三水曜日の昼に大将の店にお邪魔して近所の飲食店の人たち(や平日昼に時間がある人たち)で集まって定期的に将棋をしたりするようになった。この日も他に来客がなかったので、じゃあ誰か来るまでと将棋盤を引っ張り出してきて、結局その後誰も扉を開けることなく七戦した。プロ棋士のタイトル戦か。「もう酔っ払った!何も考えられん!」と言いながらしっかり美濃囲いや穴熊に囲ってくる大将と指す将棋は毎回とても楽しくて(負けた瞬間は腑が煮え繰り返るほど悔しいが)、そんな先輩がやってる酒場の近くで店をやっててよかったなと、七局指した結果通常の閉店時間を迎えた後、片付けをしながら思った。
いつか大将の酒場に『酒場の君』を持って飲みに行きたい。